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名古屋高等裁判所 昭和37年(ラ)35号 決定

抗告人 上野次郎(仮名)

主文

本件抗告は之を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告人は原審判中「系譜、祭具及墳墓の承継人を上野春子と定める。」とある部分を取消し「系譜、祭具及境墓の承継人を上野左助と定める。」との裁判を求め、抗告理由として別紙の通り申立てた。

二、当裁判所も原審と同一の理由により系譜、祭具墳墓の承継人を上野春子と定める。特に、之を変更して上野左助又は上野次郎と定むべき理由を発見できない。

その他職権を以て記録を精査するも原審判を取消すべき点を発見できないから本件抗告を棄却し家事審判規則第一八条、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条、第三八四条を適用し主文の如く決定する。

(裁判長裁判官 縣宏 裁判官 越川純吉 裁判官 奥村義雄)

別紙

抗告理由

一、津家庭裁判所伊勢支部に於て、被相続人亡上野太郎の遺産分割の審判をされましたが申立人等は其の分割方法の大半は之を認めるものであるが只前記の系譜祭具、墳墓の承継だけは上野春子と定められたことに納得出来ません

二、申立人である長男の上野左助を承継人に定めてほしいのです

それが出来なければ二男の次郎でも結構です

上野春子に定められたことは絶対不服であります同人の平素の行状動静等は目にあまるものがあり従つて系譜祭具境墓等の承継人として不適格者であります

出廷に際しまして詳細陳述いたしますが何卒抗告の趣旨のように御判決を求める次第であります

参考 原審(津家裁伊勢支部 昭三三(家)四七〇号 昭三七一・二三審判 認容)

申立人 上野春子(仮名)

相手方 上野左助(仮名) 外二名

主文

一、本籍 三重県志摩郡志摩町片田二八八二番地

最終の住所 同上

被相続人 亡上野太郎

の遺産を別紙目録記載のとおり分割する

但し相手方上野次郎は

相手方上野左助に対し金一一三、五一六円

申立人上野春子に対し金五六六円

を各昭和三十七年月三十一日限り支払うこと

二系譜、祭具及び墳墓の承継人を上野春子と定める

三、志摩郡志摩町片田○○○○番宅地のうち家屋番号一六四木造亜鉛メッキ鉄板葺平屋建納屋四坪五合の所在する部分について相手方上野左助は申立人上野春子に向う一〇年間無償で使用させること

四、本件審判費用は各自負担とする

理由

本件記録中の戸籍謄本、登記簿台帳謄本、遺産鑑定報告書及び各当事者審問の結果によると、申立人及び相手方は被相続人亡上野太郎の長男、二男、二女及び長女上野いしの配偶者として各相続権を有するものである。又長男上野左助は昭和二年三月十六日分家をなし以来別に住居をかまえていた処父太郎死亡後において現在の住居にうつつたものであること、又相手方左助は家業である農業を行なわず真珠販売仲介人として現在に至つていること等が認められる

二男次郎は昭和二十七年五月より現住所において真珠販売仲介を行い生計をたてており被相続人亡上野太郎とは生計を共にしていなかつた事実が認められる。

又相続人である大山友吉は被相続人亡上野太郎の長女いしの配偶者として同人間に生れた花子が昭和三十五年七月十八日に死亡して現在代襲相続人として住居地において生計をいとなんでいること、又同人は本件相続財産については紛争をさけるためにいらない旨の陳述をしていることが認められる。

申立人上野春子は亡父太郎と共に農業に従事し現在に至つていること、又同人は女手一つで他に別段何等の職業につくことも出来ず残された農地で細々と農業により生計を維持しながら事実上家の後継ぎとして来たこと及び被相続人の遺産は別紙分割表記載のとおりでありその価格の総額は鑑定報告書によると一、六七三、七五〇円となること、又被相続人には現存する債務がないこと等が認められる。

又相続人等は被相続人生前において別段遺贈をも受けていないし生計の資本としての贈与も受けていないし、又遺言もないから被相続人の遺産を鑑定総額一、六七三、七五〇円と確定し、それぞれ法定相続分によつて分割することとする。

追つて相続人中大山友吉については当裁判所のなした審問の結果によつて相続権を放棄したものと認められるから本件遺産分割の対象外とする。

よつて右遺産につき申立人及び相手方上野左助、同上野次郎に対する分割につき考究すると結局右遺産は長男である相手方上野左助、二男である相手方上野次郎、二女である申立人に各分割することとし法定の持分に応じ、三分の一、三分の一、三分の一の割合で分割することになり、これを遺産の鑑定価格より割出すと各単独分五五七九一六円となる。

従つて右割合により更に各人の生活状態即ち申立人は志摩町片田において遺産中の田畑を耕作して生計を立てており将来もこれ以外に変ることがないため相手方左助の使用中である住居をのぞく大半の田畑をこれの所有とし事実上家の後継ぎをしてきたのは申立人であり祖先の祭祀を継ぐものとする。

相手方上野左助は長男ではあるが一定の職業もあり一応その職業により生計を立てていくことも出来るが現在の住宅事情、又その使用中であること等を考慮し母屋と若干の畑を取得せしめ相手方上野次郎については兄左助と同じく一定の職業もあるところから現在畑ではあるが遺産の二分の一以上の価格をもつ畑を(宅地として使用出来る)所有せしめる方が適当であると考えられる。

上記の局主文掲記の如く分割し各人の所有を定めその過不足を金銭で是正することとする。

分割表によると申立人は総額五五七,三五〇円、相手方左助は四四四,四〇〇円、相手方次郎は六七二,〇〇〇円の遺産を取得することとなるからこれを各人の相続分三分の一の五五七,九一六円より過不足を計算すると相手方次郎は一一,四〇八四円を、相手方左助に一一三,五一六円、申立人に五六六円を支払うことにより是正することが出来る。(残分二円切捨て)

追つてこの金銭の支払については向う六ヵ月の猶予を認めることとする。

尚系譜、祭具等については事実上家のあとをついで来た申立人において承継するのが相当である。又申立人は納屋一棟に現在すんでいるものですぐに家をたてたり、他の家屋を購入するといつた資力もないところから一応主文のとおり納屋一棟を住居にあてるものとし向う一〇年間これに附属する宅地を無償で使用させるものとすることが相当であると認められる。

以上の如く本件当事者間の一切の事情を考慮し結局被相続人亡上野太郎の遺産を右のとおり分割するを相当と認め主文のとおり審判する。

(別紙省略)

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